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極上文學Ⅻ 風の又三郎・よだかの星 感想メモ

極上文學Ⅻ 『風の又三郎よだかの星
観劇の感想メモです



すきとほつた ほんたうのたべもの を 抱えきれないくらいたくさん戴きました。
とてもすてきな極上の時間をありがとうございました。

以下とりとめないネタバレだらけの感想です。
個人の好き放題な感想ですので、諸々のまちがい等どうかご容赦ください。
ときどき加除訂正します。語彙ゼロです


∵ ∵ ∵ ∵ ∵


✩︎又三郎

》納谷さんの三郎は、人でないものと人間の少年の間を行き来するような神秘性があって、ガラスのマントが本当によくお似合いでした。
「空が旗のようにぱたぱた光って飜り、火花がパチパチパチッと燃えました。」の部分で、紗幕を軽くたたいたり、台本をはじいたりするのがとてもすてきでした。
終盤、眠ってしまった語り師さんに ふうっと風を送って、髪やひざに風のなごりが落ちていく様子が、青くてとうめいな時間そのもののように思いました。そのあと台本をぱたんと閉じるとき、また風のひらひらが台本からこぼれて舞うのが、たまらない気持ちになりました。
子どもたちと一緒に遊んでいるときの三郎のかわいらしさと、風野又三郎を彷彿とさせるような雰囲気もすこしあって、風の神の子としての存在感がひときわかがやいて見えました。

》深澤さんの三郎は、一見すると5年生の少年そのもので、お父さんのもとにかけていくところや「先生、さようなら。」の声色などが愛くるしくて、風変わりな転校生という感じなのですが、ふとしたときの目の光や表情にふしぎな様子がにじみでていて、良い意味でぞわりとしました。
嘉助を助けるところで息を弾ませていたりみんなで遊んだりしている姿、まわりの子どもたちと一緒にいるのがとてもたのしそうでした。友だちに優しく、笑顔が人懐っこくてかわいらしかったです。

》地に落ちて足がつきそうになったよだかを支えるときの、納谷さんの又三郎のあたたかさと力強さ、深澤さんの又三郎の慈しみあふれる優しさが、それぞれとても好きです。
死後のせかいのことを、一郎に励ますように語る三郎の、友だちを大切にしている様子にとても感動しました。
「ぼくはきっとできるとおもう。」と言いながら前を見据える、又三郎のまっすぐな眼差しは忘れられません。




✩︎よだか・先生・司書さん

》「よだかは、実にみにくい鳥です。」と子どもたちが斉読したあと、俯き加減で黒目をきろきろさせたよだかが音もなく降りてきたのが印象的でした。
みにくいということからよい行いをしても嫌われてしまうことや、そのよだかが羽虫をころさなくては生きることができず、また鷹にころされる運命にあるという、どうしようもないつらさに絞められるように泣く姿が痛ましくてうつくしかったです。かぶとむしをのみこんでうめきながら、つらい、つらい。と呼吸をはくはくさせて、歯がカチカチ鳴っていたのが、たまらなく記憶に残っています。
かわせみの、私にとってりっぱな兄さんです、というせりふがやさしく思えました。でも嘉助が後に言ったように、引き留めることができなかった(しなかった)のもこのお話のふかいところだと思いました。諦めやかなしさや苦しさなどがたくさん入り混じったよだかの表情を見つめるかわせみの後ろ姿がせつなく思えました。
お日さんのせりふは逆にもとのせりふよりつめたく感じたので、かわせみや後の又三郎のやさしさがより大きく感じられました。
四方位のお星さんにたのんで断られ、しだいに嗄れていく声と苦しそうになる表情をみて、こんなにつらい思いをしているのに この鳥はたったひとりで飛び上がらなければならないのか、と思っていたところ、又三郎が(風の神の子としての姿かもしれませんが)よだかの体を支えて「きみの友だちさ。」と声をかける場面があって、本当に心がいっぱいになりました。
友だちということばを聞いて、私に友だちだなんて、というような顔をしていたよだかが、ガラスのマントをかけてもらい励ますようにぎゅっと抱きしめられたときに、くちびるをふるわせて涙をいっぱいにためている様子を、極上文學で観ることができてよかったとしみじみ思いました。
さいごに友だちに勇気をもらい、笑った顔で空へのぼることができて、よだかはまことの幸福をたずねることができたのかなと思いました。

》子どもたちと毎日楽しそうに過ごしている先生を見て、とても癒されました。誠実でおだやかそうな雰囲気で、小さい子にはよく目を掛けて、大きい子には優しさをもって見守るような先生なんだなと思いました。
一郎にわからずやと言われて、それまで微笑んでいた顔が変わるのが印象的でした。
雪の中で倒れている一郎を発見した安堵の表情から、楢夫のなきがらを見てゆっくり俯いて、体を支えるようにしていた一郎が 泣きながら縋ったときの先生の涙が、一郎の姿や白い布にくるまれる楢夫と相まって、とても心に残っています。
地の文を読み上げるときの(先生ではないのかもしれませんが)子どもたちを見守る眼差しが優しく、笑みを含んだ読み方も柔らかだったのですが、それが水遊びの場面でだんだんとこわさが増すときに、赤い照明が当たって微笑んだ表情が消えたように見えたのが、大変におそろしかったです。

》『よだかの星』を書いたのが先生、そして賢治さんと司書さんがつながるような作りになっていました。賢治さんが農学校の先生をされていたそうで、そのかかわりも感じました。
司書さんのことばから感じられる思いは、宮沢賢治さんのことばに通ずるものがあるような気がして、さいごに序の文を大切に丁寧に語るようにしてつぶやく賢治さんの姿が、きれいで儚くて夢のようでした。




✩︎一郎・鷹

》白柏さんの一郎は、まっすぐで素直で、みんなをひっぱる良きお兄ちゃんという感じがしました。最上級生として下級生たちの面倒をみながら、三郎のことについて一生懸命考えたり、先生にたずねたりしていて、等身大の少年の雰囲気がありました。楢夫のことを思い出してしまって、三郎と仲良くしたいのにむずかしいという複雑な心情がひしひしと伝わってきました。
つめたくなった楢夫を見たあとの白柏さんの一郎が本当につらくて、泣きじゃくる顔や先生の腕にすがるように見上げるところが、目をそらしてしまいたくなるくらいしんどかったです。

》鈴木さんの一郎は、優しくて落ち着いていて、少し大人っぽい印象を受けました。物事をよく考えて行動する思慮深い少年という感じがしました。子どもたちみんなや、先生や三郎のこともよく見ていて、いろいろ思考を巡らせているようにもみえました。
三郎に、死後のせかいのことについて教わったとき、言葉のさいごがふるえていて、それまで上級生としてしっかりした態度でいた鈴木さんの一郎が、こらえきれず涙したところに感情を揺さぶられました。

》『ひかりの素足』の部分がとても自然に織り込まれていて、三郎が本当に風の又三郎なのかという疑念を一郎にもつないでいるのだと思いました。

》白柏さんの鷹は、強さ、威厳、圧倒的な力を感じてひたすら怖かったです。強さが美しいようにも感じました。低い抑揚でゆったり語るのが余計におそろしかったです。本当にその場でよだかをころしてしまいそうな勢いで、でも口元が笑っているところに余裕がみられてぞっとしました。せりふとせりふの間の、音の消える瞬間すら底冷えするような怖さでした。

》鈴木さんの鷹は、優雅で美しく、よだかをある意味憐れんでいるようにもみえました。自分はこんなに強くて美しい、そうでないおまえがかわいそうだ、というような雰囲気を感じました。よだかをいじめていることをどちらかというと楽しんでいるふうにみえて、その笑った横顔の美しさがおそろしかったです。




✩︎嘉助・弟

》松本さんの嘉助は、いたずら少年でありながらもどこか斜に構えているというか、思春期目前という感じもしてリアルでとてもすてきでした。
一郎との間柄も、高学年コンビとして分かり合っている部分も多そうな嘉助でした。
話し方や訛りが自然で、みんなでさいかち淵で遊ぶところや、三郎と言い合いになって箇条を立てて言うところなど、かわいくておもしろくてずっと見入っていました。
三郎がいなくなってしまう日に、複雑な思いを抱いているのがその表情から伝わってきて、一郎と顔を見合わせるところでとてもせつなくなりました。

》市瀬さんの嘉助は、元気いっぱいでかわいらしく、少し幼さの残る5年生という感じで、一郎に面倒をみてもらいつつ、ムードメーカーで場を明るくしていました。石を一生懸命磨いている姿や、先生とのちょっとしたやりとり、一郎に見つけてもらって泣きじゃくる姿など、くるくると様子が変わって、見ていてとても楽しかったです。
かわせみはばかだと言って三郎に抱きつく場面、風の又三郎だと信じている嘉助が三郎となかよしになっていることに涙腺がゆるみました。そして三郎がいなくなったとき、きっと戻ってくるんだと言って、目を腕でこするようにして泣いたのにもまた泣けました。

》大人になった嘉助が石を大事にしていたことや、友だちにいつか会えると信じていることに、心がじんわりあたたかくなりました。
忘れちゃいけない大事なものを、嘉助を通してたくさん見せていただきました。

》役名の『弟』をかわせみのことだけだと思っていたので、ひかりの素足が織り交ぜられていたのに驚きました。

》松本さんの楢夫は、雪や風などの自然にたいするおそれが強く感じられて、この場面をいっそう不気味なものにしていました。さいごに一郎のほうに手を伸ばすときの表情や声がやわらかくて、お別れなんだという事実に心がつぶれました。

》市瀬さんの楢夫は、兄である一郎と一緒にいたいという気持ちが伝わってきて、離ればなれになってしまうことが本当につらかったです。笑顔で「兄ちゃん」と呟いた姿で、よいところへ行けたんだと思えて泣けました。

》また、かわせみのうつくしい姿がよだかと対になっていて、そして兄を思う気持ちが優しい声に表れていました。まっすぐによだかを見つめて伝えていた松本さんのかわせみ、空をあおいで心に刻むようにして呟いていた市瀬さんのかわせみ、どちらも儚くてすてきでした。

》遠いところへ行く兄を止められなかったかわせみを、友だちが遠くへ行ってしまった嘉助、兄の腕の中で息をひきとった楢夫とおなじ役者さんが演じられていることに、とても言いようのない気持ちになりました。




✩︎具現師さん

》風の子たちのかわいらしい動き、天候をあらわすふしぎで不気味な動き、吹く風のきれいな舞や風の音、5人の具現師さんですべて表現なさっていると思えないくらいたくさんの重要な部分を担われていました。
風のもつ よい力もおそろしい力も、動きと音がさらに印象を強く与えてくださいました。

》子どもたちもそれぞれ個性的で、とてもかわいかったです。耕助と佐太郎のちょっとしたけんかや、三郎にちょっかいを出したり、水をかけたり、いろいろなことをそれぞれがしているのが楽しかったです。

》「どっどど どどうど どどうど どどう」のうたのすてきな旋律は、具現師さんの百瀬さんが作られたそうです。風の声も録音ではなく生で歌われていたとのことで、本当にすてきでした。公演中も公演が終わってからも、ずっと頭から離れません。




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》一郎と嘉助、三郎=風の又三郎を信じない者と信じる者の立ち位置が、ひかりの素足をはさむことによって入り交じり、さいごには三郎はふたりの友人として心にきざまれるという流れが、はじめは新鮮でおどろき、千穐楽後の今ではとてもあたたかい気持ちになりました。

》今回が初の語り師さんの担う役どころも楽しみにしていました。語り師さんが変わると物語の色も変わり、お日さんや大きなまっ白なすあしの人、地の文、図書館で友だちを探していた人、それぞれ読み方や声色、声の高さ、男女のちがいなどもあるかと思いますが、まったくちがっていて本当におもしろかったです。
読み師さんが変わっても役柄のもつ魅力もまた変わりますし、今回三浦さんの回を拝見することが叶わなかったので、配信やDVDでそのちがいをまた楽しませていただきたいと思います。

》お話の流れに直接関係ないのですが、藤原さんの先生が白柏さんの一郎のお芝居に揺り動かされて感情がぶわっと表出しているようにみえた瞬間があり、その後の藤原さんのよだかと白柏さんの一郎、深澤さんの又三郎など、お互いの演技を受けて響きあい作用しあっているように感じとれました。
もちろん御三方だけでなく舞台の上にいらした役者さんがた全体が、それぞれに呼応するようにお芝居をなさっていて、観ている側にとってもその進化を間近で受け取れるというのは観劇の醍醐味だなと思いました。

》極上文學はいくつかの作品を拝見したことがあるのですが、今回のⅫは題材もあると思いますがとても分かりやすく、けれど奥深くて(すべての作品が奥深いです)、はじめて極上文學を観ますというかたにぴったりなのではと思いました。

》今回『さいわい』と『さびしさ』ということばが用いられていて、風の又三郎よだかの星でこのふたつが選ばれた理由が、観劇してとてもよくわかりました。

》ますむら先生のキービジュアル、きらきらのガラスのマントをまとった又三郎が、星くずの涙をこぼしているよだかを抱えて微笑んでいるように見えるのが、劇中のふたりのやりとりを思い出します。とても泣けてきます。

風の又三郎よだかの星だけでなく、宮沢賢治さんのさまざまな物語や詩から成り立っている内容で、舞台を観たあと宮沢賢治さんの作品にもっとふれたり、小さい頃に読んだお話をもう一度読んでみたりしたいと強く思いました。作品だけでなく、宮沢賢治さんご自身の考えや生涯についても、改めてもっと深く知りたいなと思いました。

》いろいろなことばや文章も、一郎や嘉助、又三郎が口にすると、もとの詩などの意味とはまたちがってみえてくるのが、とてもおもしろかったです。
嘉助が「なんべんさびしくないと云つたとこで またさびしくなるのはきまつてゐる」と言うのも、一郎が「けれどもここはこれでいいのだ すべてさびしさと悲傷を焚いて」と言うのも、三郎との友情を感じて目頭が熱くなります。
ガラスのマントをはためかせた又三郎が、「われらは世界のまことの幸福を索ねよう」「ぼくはきっとできるとおもう。なぜならぼくらがそれをいまかんがえているのだから。」と言って微笑む姿が、思想を体現しているようで、本当にきれいでぞわりとして、うつくしかったです。


あたらしい試みをたくさん行って、区切りとしたという今回のⅫ、ずっとあの風の吹いている場所で物語をみていたいという気持ちでいっぱいでした。
次回の作品に思いを馳せながら、風の又三郎よだかの星で感じた たくさんの風や水や空気の思い出を、いつまでも大切にしていきたいと思います。


メモ
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