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極上文學XIII こゝろ 感想メモ


極上文學『こゝろ』の感想です。

だいぶ引きずっているため何を書いているんだか分からない部分や、個人的な感想のため意味不明な部分も多いと思いますが、諸々のまちがいや誤解釈などどうかご容赦ください。ときどき加除訂正します。




【私(わたくし)】

・内海さんの私は、まっすぐで誠実な青年という印象がありました。先生の姿を澄んだ眼で見ている様子に清廉ささを感じました。静さんや先生の言葉の意味を考えながら、相手の思いを感じて反応しているように見えました。

・櫻井さんの私は、人懐こくてかわいらしく、まだ精神的な幼さも少し残っているように感じられました。一途で健気で、小動物のように先生について行く姿とそのかわいらしさのため、後半が余計につらかったです。

・先生の遺書を読んでいるときの私が、声を震わせたり目を見開いたりしていて、私の心情を思うとほんとうに言葉になりません。

・遺書を読み終えたあとの描写が追加されていて、静さんに駆け寄っても何も言えないところや、行っちゃいけません行かないでくださいと泣き叫ぶ姿に私の思いが詰まっていました。先生が長年誰にも言わずに抱えていた罪や苦しみを自分にだけ打ち明けて、人知れず亡くなっていくことによって、私にとってどんなに重たいものが残るのかと思うと、非常に複雑な気持ちになります。

・『〜〜本名は打ち明けない。』と言って(書いて)伝えている対象は誰なのか、今思うととても気になります。このあたりの台詞を清しい声色で読まれていたので(そのすぐ前の回想のときはつらそうでしたが)、それに最後の私の表情から、私にとって先生の思い出や過去はとても大切で、あたたかいものなんだということが分かりました。




【先生】

・元々の性質が変わってしまうほど、先生のおこなってきた(おこなってしまった)ことが重大で取り返しのつかないものであることが、ただただ苦しかったです。『死んだつもりで生きて』きた先生の、周囲に対しての感情が止まっているような様子が、私と出会うことによってすこし意志が動くようになってきたように見えたのが、後々の遺言につながっていて涙が出ました。『あなたはまじめだから。あなたはまじめに人生そのものから生きた教訓を得たいと言ったから。』の声がおだやかで優しかったです。今まで誰にも言わなかったことを、まっすぐ受け止めてくれる相手ができたことが、先生にとっては最後の幸せだったのかもしれないと思いました。

・Kに対して、何も言ってくれないんだな、何か言ってくれ、お前の言葉が聞けたなら と繰り返す先生が一番、Kからもう何も聞くことはできないとわかっていて、それはすべて自分のせいだともわかっているのが見ていてつらかったです。

・Kは先生にとって、幼馴染としてかけがえのない存在であったことは間違いないと思うのですが、先生の『平生はみんな善人で、いざという間際に急に悪人に変わるから恐ろしい』という言葉のとおりに、憎んでいた叔父と同じになってしまったことがひどく見惨だった、という話の流れが、先生のどうしようもなく人間らしいところをあらわしているように思いました。

・静さんの前で天罰だからさと言うところや、私に対してたった一人になってくれますかと言うところが、先生という人柄を深めているなと思いました。Kがお嬢さんに『月が綺麗ですね』と言っている間、後ろですごい顔をしながら台本をめくっているところや、めくり方も毎回ちがっているのにもぞっとしました。最初、私の顔についた砂を払うところも、どのような心情でしたのだろうと思いました。

・親友を出し抜く形で静さんを得て、そのことによりKを喪った先生の姿は、程度や形は違えど人間なら誰もがもっているエゴの部分であり、それががわかりやすく凝縮されている気がしました。

・私と話しているときの、感情の起伏がほとんどないような、ほんとうに死んだように生きている状態と、過去のKとの回想で明るく優しい性質があらわれている様子や、それがお嬢さんとのことにより次第に視線や声色が鋭くなっていくところで、心情の移り変わりが先生自身の行動によるものだと改めて感じられて泣けました。

・Kの死因と、それを考えて涙している先生の姿が印象的でした。恋というものにとらわれすぎていて見えなくなっていたことと、溺れかけた人に熱をうつしてやるような気持ちでKを一緒に住まわせたのに、たった一人で寂しくてしかたない状況にしてしまったことに、ただただ後悔しているんだろうなと思うと、胃がしぼられるような感覚になりました。

・ひとことの台詞のうしろに何十何百もの意味があるだろうと読み取れる藤原さんのお芝居に、始終鳥肌がたちました。




【K】

・芹沢さんのKは、先生に対する気持ちがとてもきれいだなという印象を受けました。墓前で手を合わせる先生に何かを伝えようとして、それは叶わないという場面での先生のことを見る目が悲しそうで澄んでいました。先生に抜けがけされても、怒りというより悲しみが勝っている様子に見えて、余計に泣けました。

・松井さんのKは、実直誠実で純粋な感じがしました。先生のことを親友として大切にして信頼しているようにも見えました。だからこそ先生とお嬢さんが結婚すると知ったときの表情がつらそうで、自害した理由も孤独に耐えられなかったためというのが痛いほど伝わってきました。

・釣本さんのKは、先生やお嬢さんのことをじっと見る視線にたくさんの意味があるように思いました。涼やかな面立ちの中に揺るがない信念があって、それが先生とお嬢さんに関わることによって歪んでいく、折れていくのがわかりました。自分を出し抜いた先生のことをどう思っているのか、様々な感情が含まれているように見えました。

・Kの視点や性格から考えると、奥さんに話を聞くまで何も知らなかったのだとすると、また話を聞いて元々先生とお嬢さんが結婚する予定だと思ったのだとすると、信頼している親友に隠し事をされたことを知ったらほんとうに孤独だし、先生にはっきりと打ち明けてもらえなかったことが悲しいし、お嬢さんに恋をしていた自分も惨めだし、何より自分の目指す状態から大きく逸脱しているのに気づいたことによる自分への絶望に『もっと早く死ぬべきだったのに』と思うのもわかる……と思いました。Kがなぜ自殺という方法をとったのか、いろいろな捉え方ができて、それに対して考えを巡らせることができるのが、この作品の面白いところだなと思いました。




【妻】

・白石さんの静さんは、可憐で優しくて、隠れた聡明さも感じました。先生に『おれが死んだら、』と言われて、よしてと抑えた声を出して寂しそうな顔をしたところに胸が痛みました。先生のことを心から心配していて、けれども自分には何もできないという気持ちが笑顔の中に滲み出ていて、最後の場面が一層悲しく思いました。

・東さんの静さんは、明るく素直で、すこし茶目っ気の残るかわいらしさがありました。若かりし頃の先生やKに対しても、天真爛漫な雰囲気で接していて癒されました。だからこそ、先生がなぜ悩んでいるのか理解してあげられないつらさを、明るさの端に感じて、悲しい気持ちが伝わってきました。

・お嬢さんについてもさまざまな解釈があると思うのですが、この極上文學の中では、先生が妻に対して記憶をなるべく純白に保存しておいてやりたいと思ったくらいに、大切であたたかい存在であったことを願ってしまいます。

・最後に『たった一人の家族ですもの。』と微笑んだ静さんはお強いなあ……と思いました。あの笑顔で涙腺がとてもゆるみました。きっと立場的に一番つらいんじゃないかなと思ったりもしました。先生が何も伝えずに亡くなる意味をどこかで気づいていたのかもしれません。




【具現師さん】

・前回のⅫからさらに進化していてほんとうにすごかったです。効果音をすべて担当なさっていた百瀬さんや、福島さんの流れるような身のこなし、小野田さんの笑顔とかわいらしさ、毛利さんの朗々としたお声、古賀さんの表情や歩き方などなど、いろいろな役や表現を担当されていて、見どころがたくさんでした。




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・前回から加わった語り師さんが今回も登場されました。語り師さんのお声や読み方ひとつで作品の印象や雰囲気ががらりと変わるのも、極上文學の面白いところだなと思いました。凛と響く声で、物語の輪郭がはっきり映し出されるような感じがしました。

・Kが呻きながら白いボードに色をつけていく演出に胃をえぐられる思いがしました。私や静さんにも色がつけられていって、真っ白だったものが最後には様々な色がまざりあっていて衝撃でした。直接関係ないのですが、真っ白い表紙の『こゝろ』の文庫本がありまして、今までそのイメージがなんとなく強かったのですが、そこに登場人物たちのあらゆる感情によって色がまざっていったように感じて、鳥肌が立ちました。

・Kのもとに座る先生が、『鎮魂』の花言葉をもついちょうの葉に埋もれていく演出が最高でした。私と先生の思い出にもなっているであろういちょうに、ぬりつぶされるように消えていくKと先生の姿が忘れられません。

・毎回ロゴのモチーフが作品をあらわしていてとてもすてきだなと思います。今回はお月さまとお墓といちょうの葉で、お墓まいりをしていた先生の後ろ姿や、月を眺めていたKとお嬢さんを思い出します。

・今回のピアノ曲も心洗われるような、感情に沁み込むような極上の曲ばかりでした。いつかサントラが出ないかなあと思っているのですが、作品と合わさってこその劇伴なのだろうかとも思いますが、ほしいです…。塗料演出の場面で流れる曲がほんとうに好きです。カーテンコールで流れるいつもの曲も、いつ聴いてもなぜか涙腺がゆるみます。

・原作は、もっと人間のどうしようもないところや嫌なところやずるいところが生々しく描かれているように感じて、読むとぞっとしたりがっかりしたり嫌だと思ったりしょうがないと思ったりするのですが、極上文學では登場人物の感情をシンプルにして表現を鮮やかにすることで、観客が感情移入して観ることができる作品になっているのかなと思いました。

・極上文學の醍醐味として、舞台を観たあとに原作を読むとまた新たな発見ができたり、書いてある台詞が役者さんのお声でイメージできたり、原作の良さを改めて感じることができたりして、とてもたのしいです。

・ロビーに飾ってあったフライヤーといちょうの葉と原稿用紙、あの文字はどなたが書かれたんだろうとか、撮影で使われていた万年筆とインクはどこのものだろうなあとか、細かな部分もたのしませていただきました。

・アンケートで演目のリクエスト一位だったという『こゝろ』を、最高の役者さん方や演出や音楽などで観ることができて、ほんとうにうれしかったです。どの台詞、どの場面を切り取っても様々なことを考えたくなる作品で、何度見てもちがう発見がある新鮮な舞台でした。

・心に突きささる台詞、登場人物の表情を思い出しながら、また次の極上文學をたのしみにしたいと思います。