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スタンレーの魔女 感想

2019.7.28〜8.8
DDD青山クロスシアター
『スタンレーの魔女』の感想です。
諸々の間違い、語彙のなさ等ご容赦ください。

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戦争真っただ中のお話でも、いちばん強く印象に残っているのは隊員たちの笑顔です。

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冒頭のシーンでの笑顔に早々涙腺をやられました。みんなが敷井を見ている中で、その表情もおだやかだったり満面の笑みだったりはにかむようなものだったり見守るようなものだったり、それぞれが敷井と敷井の夢をどう思っていたのかということが分かって、開始20秒くらいで泣きました。
石田中尉からはじまり、亡くなった順、飛び降りた順にも理由がありました。『笑っていなくなっていく』この最初の演出で、作品やお芝居に対する御笠ノさんの思いを垣間見たような気持ちになりました。
そして最後の演出と映像と音楽が圧巻で、敷井と同じ気持ちになって泣き叫びたくなります。

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冒頭とラストで響いてくるあのうつくしい歌声が、スタンレーの魔女の声のようにも聞こえますし、命を落とした者への鎮魂歌のようにも聞こえてきます。
プロペラの回る音が隊員たちの命の尽きるまでの音のように聞こえて、片肺になって完全に止まるまでの静寂の中に響くかすかな音を聞くのがたまらなくつらかったです。

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この舞台が映像に残らないというのも、いなくなってしまったらもう見ることも会うこともできない、ということと重なって泣けてきます。
生で観る機会は公演期間中だけであるのと同時に、公演期間が終わったらもうこの面々を見ることはできないんだなと、すでにさびしくて仕方ありません。

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のんびりゆるゆると過ごしている日常の中であっても、戦時中の焦燥や諦めや恐怖心という感情が登場人物たちからじわりと感じられました。しかしそれをひっくるめて包んで、常に誰かから誰かへの優しさを感じるお話になっているように思いました。

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敷井のまっすぐで澄んだ目がスタンレー山脈を見るときに、周りの空気も澄んでいるように感じました。敷井のもつロマンが周りにも伝播している気がしました。
みんながわちゃわちゃしているときに、ちょっとだけ控えめにわちゃわちゃの渦中にいるのがとてもなごみます。
石田中尉や後藤が亡くなったとき、とても悔しそうな悲しそうな表情をしているのが心に残っています。
機内から重量物を捨てていく場面で、長靴などを捨てるときにおいてもわちゃわちゃしてるのも涙腺にきますし、みんなの笑い声や冗談を聞きながら操縦している敷井がとっても良い顔で笑っていて、「孤独だから負けたのかもしれない」の台詞を思い出して、敷井が最後までみんなと一緒にいたということが胸にぐっときます。
空っぽになった機内でみんなの名前を呼びながら泣いている声が、観終わったあともずっと耳に響いていて、もちろん悲しさやつらさはあるのですが、うまく表現できない何とも言えない気持ちが残響のように残ります。

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出戻中尉がふと見せる諦念(とは違うかもしれません)に、中尉の今までの人生が見えてくるようで深みを感じます。
壊滅状態だという場面で言葉を発するのがつらそうなところや、つぎはぎの機体が完成してみんなが喜び合っている中で複雑な表情をしているところ(そのあと敷井に笑顔を向けるところ)でどうにも涙がでます。機体が完成してしまったら今こうして過ごしている部下たちを死地に向かわせることになるのを、色々な思いで見据えているんだろうなと思いました。
後藤の背中がいろんな奴に見えるというところで泣きそうになっているようにも見えて、中尉は今までさまざまなたくさんの仲間たちを見送ってきたんだろうなと感じます。
奥底の静かな威厳とともにとてもかわいらしいところもたくさんあって、仲間たちとわちゃわちゃしたり、敷井の勢いに自分も走り出してたり、酒瓶の口をスカーフ(?)で拭ったり、狭い部分を通って顔に付いたかもしれない錆(?)を気にしたり、海や川の水だったり、おたまじゃくしがかわいかったり、足立がわだちになったり、序盤でわけのわからないことを言いながらも後藤をしっかり諌めたり、みんなとバカやったり、そういう細かなきらきらした部分が人物像をさらに深めているように思いました。
最期に飛び降りるとき、足立と尾有に後を託したのかなと考えると、そのときの中尉の心情を思うとたまらない気持ちになります。

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大平がこの部隊の中核といいますか、ムードメーカー且つみんなのまとめ役で、そしてみんなのことをとても大好きなんだろうなと感じました。全員のことを好きでよく見ているからこそ、色々な反応がすぐにできたり、そこからさらに面白くなっていったりするんだろうなと、心にじんときます。
冒頭のシーンで、飛び降りる間際まで敷井に笑顔を向けていたんだなと思って涙がでました。
仲間が後藤にケンカを売られて、自分を悪く言われたわけではないのに怒りを爆発させているのも仲間想いな性格があらわれていて好きです。
熊田のこともトイレでしなさいと言いつつも、きっと許しているのかもしれないなと思います。大平のツッコミにあたたかさを感じて、仲間への言葉ひとつひとつに優しさを感じます。
たくさん面白い動きや台詞があって、それに仲間たちが呼応して話が進んでいくところが自然で、目の前に登場人物そのものが生きているように見えました。

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葉っぱで投下訓練していたり、昆虫大好きだったり、少年感のある流山がとてもかわいかったです。そしてとても心の優しい人物なのだと思いました。
天真爛漫で無邪気なふるまいの中に相手を大事にする気持ちや、相手の先にいる相手のことま大事にする気持ちが見えて、尾有の手紙のシーンでいつも感動します。
純粋な人だからこそみんなにひどいことを言う後藤はキライなのかなとも思いました。でも冒頭のシーンのときに去っていく後藤の姿をじっと見ていて、とても泣けます。
小説になっちゃうぞ、バッタを燃やすと…、カマドウマも…、昆虫に例えると誰に似てる?など面白い台詞がいっぱいで、大平も何度も言っていたのですが目ヂカラがすごくて、間の取り方も最高でした。いらにゃいは突然嬉しいことを言われての唐突な照れ隠しなのかなとも感じました。
流山のような性格の人が部隊にいて、仲間たちが心救われていた部分もあったんだろうなと思いました。

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熊田もムードメーカーで、はちゃめちゃなトイレ事情と大平とのやりとりにただただ笑っていたのですが、ものすごく細かいところで仲間を大切にしているのがとてもよくわかって、声に出す台詞がない部分でも何度も泣きそうになりました。
合わせる顔も減ってると足立に言ったあと、足立が神妙な表情になったのを見て小さくごめんなと声を掛けているときがあったり、石田中尉に肩を貸す流山の背中をぽんとしたり、つぎはぎ爆撃機を作るときに色々気遣う動きをしていたりと、見どころがたくさんあって目が離せません。
足立が眼鏡を捨てようとしたとき、すっと止めて自分が服を脱ぐのが格好良すぎました。
そして熊田もみんなのことが大好きなんだなと思いました。トイレのこともそうなのですが、仲間を見るときのにこにこした笑顔が忘れられません。面白い言動の中の朗らかさがすてきでした。

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真面目で誠実な足立が、このメンバーと同じ部隊というのがまた面白いところだなと感じます。
眼鏡をなくして爆弾を落としてしまったというのも、実際は笑い事ではないかもしれませんが微笑ましくて、それを仲間と喋り合っているのがかわいかったです。
後藤と争いそうになったときに目つきがキッとなるのが、仲間といるときのふわっと優しい表情と違っていたり、石田中尉に戦況を報告するとき手のひらがぴしっとなったりするのも、足立の性格があらわれていました。
大平や流山の言動にたまらずずっと笑っているときがあって、それも含めてとても面白かったです。
冒頭のシーンで敷井を真剣な眼差しでじっと見ていて、一番最後に尾有と飛び降りたのかと思うと、敷井に対する足立の思いがうかがい知ることができて胸がいっぱいになります。
捨てるのを止められたあと眼鏡をまた掛け直すところの表情に色々な気持ちが含まれているように見えて、その後敷井に声を掛ける笑顔にも涙がでました。

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居眠りしているときにみなこちゃんの夢を見ているのかと思うと、尾有の居眠り癖もうるっときます。
大平の号令で集合するときに、敷井の頭が当たってわたわたしているのがかわいらしかったです。
流山に手紙のことを本気で謝っていて、この二人の友情に泣けてきます。ありがとうと言う声と、俺がお前に手紙を書くよ、という台詞に優しさとあたたかさを感じます。
魔女がいます全裸の!というおちゃめな部分もあったり、熊田に機内で投下されたあとに奥でわちゃわちゃ笑っていたり、面白かったです。
目の良さ悪さのことで足立と話しているのも、お互いのよさをにこにこ伝え合っていて、戦いの最中でも相手を思えているのがすてきでした。
敷井に掛けた最後の言葉が本当に格好良くて、その言葉の通り尾有が最後に飛び降りた(足立と)と分かって、涙が止まりませんでした。

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僻んで悪態をついていた後藤が、敷井をはじめみんなと関わっていく過程で、心情が変化していったのがとても鮮やかに見えました。
最初こそ一触即発みたいな関係でしたが、わちゃわちゃたのしくやっている部隊の面々が変わらずわちゃわちゃやり続けることで、戦闘機乗りの孤独に蝕まれていた後藤の気持ちが少し違うものになっていったのかなと感じました。
出戻中尉に叱られたとき、面白いことを言われて笑ってしまっているのがたのしいのですが、あの場面で諌められたことが重要だったのだなと思いました。
敷井にうらやましいと吐きだして、背中を押された後藤が、ちがうからな!と混乱して叫んでいるのがかわいかったです。もっと日が経って、部隊のみんながわちゃわちゃするのを見たりツッこんだりしている後藤も見てみたかったと思わずにいられません。
ああ分かっている分かっているぞ!のやりとりが面白くて、これは石田中尉のときもそうなのですが、直前まで面白い場面なのに、命を燃やして尽きるまでが一瞬で、でもその一瞬がとにかく(言い方がよくないかもしれませんが)強く輝いていて、別れを惜しむ時間も言葉も許されないというこの一瞬の出来事がとてもリアルでした。
後藤がああしてでもみんなの機体を守ろうと決めた瞬間や、ああするしかないと悟った瞬間のことを考えると、実際にこういうことが起こっていたのだと思うと言葉になりません。
冒頭で誰に何を伝えるでもなくすっと去っていく後藤に、ただただ切なくなります。

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石田中尉のふにゃっとした笑顔が癒しでした。
足の怪我はきっと挫いただけではなかったのかもしれないと思うような、良い意味でつかみどころのない姿が格好良かったです。
出戻、と掛ける声の柔らかさや出戻中尉と飲んでいるときの話し方の優しい抑揚がとても好きです。
戦闘機乗り側の思いや苦労を、石田中尉や後藤を軸としたお話を見てみたいと思いました。後藤のことを心配していて、部下たちのことをひとりひとり気に掛けている優しさが見えてすてきでした。
最期の言葉が「気にするな」というのが、思い出すだけで叫びそうになります。昨日まで、さっきまでそこにいた人が、もう今の瞬間はいなくなってしまっているというのが、底なしの穴に落ちたような気持ちになって、涙が出る前に「嫌だ!」という思いになります。亡くなった現実を理解したくない認めたくないとすら思う間もなく、石田中尉の最期のシーンはとにかくつらかったです。

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この夏、御笠ノさん脚本演出の『スタンレーの魔女』を観ることができて、本当によかったです。
役者さん方のお芝居というのを忘れて、そこに生きている隊員たちの生活とロマンと戦いを夢中で観ました。
公演が終わってみんなの姿を見られなくなっても、みんなの笑顔をずっと覚えています。