Zu々プロデュース 怜々蒐集譚 感想
♦︎ 2019年2月公演の『怜々蒐集譚』キネマ・キノドラマの備忘録メモです。感想と、DVDの感想がまざっています。自分の呟きのまとめ+αです。
諸々のまちがい等ご容赦ください。適宜加除訂正します。
(語彙力ゼロですみません)
♦︎ キノドラマの終わりからキネマの冒頭につながっていて、キネマの中の部分はキノドラマの過去で……というつくりになっていて、両方観ると分かってくることもたくさんあり、何度観ても本当におもしろかったです。
♦︎ キネマはとにかく音と色彩がうつくしくて、ずっと見聞きしていたくなります。自然の音が細かいところまで入っていて、耳に心地よかったです。光の加減が本当にきれいでした。
風の音、床のきしむ音、空気の音、原稿用紙の音や紙の上をペン先がすべる音、呼吸の音や声を、劇場の音響で聴くことができてよかったです。(上映会で映画館で観られることもとても貴重な機会だなと思います。たのしみです。)
烏鷺が原稿を書くときの万年筆の音や、乙貝が右手で書くことになるときの音もとても心地いいです。
相葉さんと相馬さんのお芝居が最高でした……! 役が溶けているといいますか、役に溶けているように感じました。感情がにじんでいたりあふれていたりの繊細なお芝居がとてもとてもすてきでした。
叫んだあとに静かに訊ねる乙貝の声と、ためらいながら頷く烏鷺の表情に言葉が出なくて、胸をかきむしりたくなります。
乙貝が電報を受け取って読んで外に出て寒椿を埋めて、のところのカメラワークと音楽と音と相馬さんの演技がすさまじく好きです。床の軋む音とか音楽がわざとゆがめてあるところとか、乙貝の動きのゆるやかなたわみと声の苦しそうな感じとか、そのあとの夢とうつつがまじったような静かな場面も好きです。
冒頭の『才をこう』(違っていたらすみません)は、「乞う」「請う」かとも思いつつ、「恋う」の文字が思い浮かびました。
手をのばしてふれようとしたあと、烏鷺が顔をきょろきょろさせているのがかわいかったです。
烏鷺は乙貝の才能も乙貝自身のことも大切にしたかったんだろうと思います。まぼろしの中で乙貝に『約束をおぼえているか』と繰り返し問う烏鷺の気持ちが、一連の出来事の根幹になっていることが、キノドラマにもつながっていてたまりませんでした。それをふまえてのキノドラマでの出泉先生の台詞で泣きました。
烏鷺公外と乙貝紅葉の書いた本が読んでみたくなりました。本の題名もとてもきれいでした。そしてあの原稿にはどんな文章が綴られているのかなと気になります。
♦︎ Hamlet Machineさんの『幻灯の永遠』も頭から離れません。穏やかだけど仄暗いようなタンゴが怜々の雰囲気そのものという感じがします。キネマで流れると歌詞と旋律が心にぐっさりというかずっしりというか、感情がぐしゃっとなるような、でも軽やかなようなふしぎな気持ちになります。DVDをヘッドホンで聴くと、曲が流れ始める前の空気の音まで聞こえて最高でした。
怜々蒐集譚の音楽が大好きでなりません。
全体的に流れるピアノの音がまるくてうつくしいです。どの楽器の音もずっと聴いていたいです。場面や雰囲気に合わせた曲が、じわりと物語の色を深めている気がします。
それぞれの楽曲が、烏鷺と乙貝の声と空気の音にまざって溶けていっているのが本当にきれいです。サントラが出たらいいなあと心から思います。
♦︎ キノドラマは台詞の音の面白みや無言の一瞬、音のない瞬間の感情の動きを感じることができるのがとても味わい深いと思いました。ことばの流れがよどみなくて聞き心地がいいです。ところどころ原作と読み方を変えているのは、文字が見えない舞台で言葉をわかりやすくするためかなと思いました。
思考のスピードと舞台上の時間経過がちょうどよくて、謎解きのような、これがああなってこことつながる、みたいなお話の流れにのれたのがとてもたのしかったです。
溝口さんの南君はとてもかわいいのに芯がしっかりしていて清廉で、佇まいが凛としている印象を受けました。溝口さんの純朴なお人柄がお芝居からじんわり伝わってきて、いろんな人に振り回されつつも聡明で、皆に愛されるキャラクターでぴったりだと思いました。誰を見るときもまっすぐで、しっかり相手をとらえている感じがします。
藤原さんの出泉先生は、好奇心に駆られつつも懐が深くて優しい感じを受けます。
出泉先生が相手のことを、探究心にひかれるように丁寧に探っているときの、いろいろな表情を観るのが面白いです。南君を見るときと、乙貝を見るときと、葛葉さんを見るときと、公美子さんを見るときと、芯は同じでも表情やまなざしのやわらかさや優しさのちがいがとても好きです。
出泉先生と会話することによって変化する相手の様子にも見入ってしまいます。
この出泉先生と南君の対比とバランスがたまりませんでした。
この二人がさまざまな登場人物にかかわっていくとき、繊細なものがこわれてしまわないように大事に見守りつつ後押ししているようにも見えて、おだやかで切ない気持ちになります。
キノドラマはこの二人と葛葉さんが話の軸になっていました。
味方さんの江戸弁が耳に心地よかったです。大向こうから掛け声が聞こえてきそうな瞬間があって、立ち振る舞いもとても爽快でした。朗々としたお声や表情がすてきでした。葛葉さんもまた相手に対してあたたかな優しさをもっている人でした。
原作でも思ったのですが、南君と出泉先生のコンビも面白いですし、南君と葛葉さんコンビのかわいらしさ、葛葉さんと出泉先生の関係性もまたちがって面白かったです。
原作の登場人物がそれぞれ掘り下げられていて、見どころばかりでした。
岸さん演じるお医者さんのかなしさが、遺品の整理をしているときの表情やため息に表れていて切なかったです。大きな病院なら、と思いながらも助けてあげられないことに色々な感情になっているのだろうなと思いました。出泉先生のやりとりで救われた部分もあったのだろうなと思ったり、来島さんとの会話で感情が動いたのだなとわかる雰囲気がとても好きです。
瀬戸さんの公美子夫人のうつくしく凛としたお姿に見とれつつ、時折小刻みに震えている肩や口元に心臓がぎゅっとなりました。烏鷺のことばが自分へ宛てたものではないことを悟っていて、微笑んでいるように見えても目には涙がいっぱいで、乙貝と出泉のいる所から去るときにひとつ呼吸をして背筋を伸ばして歩を進める姿に涙腺がゆるみます。
舞花さんのかわいい笑顔にひたすら癒されました。ほわっとしたお声が物語の清涼剤でした。野尻さんのボーイさんも深みのある格好いいお声で、冒頭の語りがテンポよく軽快で、一度三人の方を見て止まる瞬間が面白かったです。この二人の会話がかわいらしくてほっとなごみました。
宮地さんのお芝居で涙がぶわっと……。南君との場面ではやわらかな声と所作に心奪われました。そして舞台で掘り下げられた部分に感情を揺さぶられました。優しく笑顔で語りかけているのが、ゆるやかに嗚咽に変わっていくところが大好きです。
鯨井さんの演じる来島さんもあのように掘り下げられていて、南君の素直さを評価しているところなどコミカルなところもかわいくて、そしてお医者さんとの場面でじんわりとした気持ちになりました。いろいろな人があの出来事の結末で救われたのだなと思いました。
出泉とのおもしろ勝負みたいなシーンもとても好きです。滔々とした話し方やすらりとした佇まいから目が離せませんでした。
相馬さんの乙貝先生の気怠げな雰囲気と抱えているものが綯い交ぜになっている様子が苦しそうで、観ているのがつらくなるほどでした。
このまま本当に倒れてしまうのではないかと思うくらいに足元が覚束ない感じで、食事を召し上がらず演じられていたとのことで大変びっくりしました。目がうつろになって南君の首を絞めるシーンでは、動きが別人そのもので、乗り移られている様子に鳥肌が立ちました。
キノドラマの乙貝を観ると、キネマでの出来事が思い出されて泣きそうになります。
ぼろぼろに傷ついた(自分から傷つきにいったような)乙貝の二年間を、南君のまっすぐさがとらえて出泉先生の優しさが包んだように見えて、また泣けてきます。
♦︎ DVDのリーフレットの写真、物語の今後が見えてくる場面のような気がしました。あのシーンが選ばれたのかとそわそわしました。
原作の『隠され郷』、オカルト物の怪アヤカシ好きにもたまらないし、出泉先生と南君の関係性や、南君の心情の変化と気づき、それから味方さんの演技でぜひ拝見してみたい場面があったりと、読んでいてたまりません。
キノドラマとキネマを観てから隠され郷を拝読したのですが、読んだ後に観劇して、この関係がこう変わっていくのか……など色々考えて、またちがった楽しみ方ができて新鮮でした。
メモ
・南君の懐中時計
・烏鷺の遺品の万年筆(モンブラン……?)
・「約束をおぼえているか」
・未練はあるか、うん少し、いやない
・忠信
(のちほど追加)
DVDの特典映像も見応えがあって、どのような思いをもって演じてらっしゃったのか、人物についてどのようなお考えを抱いているのかなどが分かって、さらに楽しむことができました。
7月に映画館での上映会があるなんて、とても贅沢で本当に嬉しいです。
制作者さん側のいろいろなお話を伺えるのもたのしみです。
そして、このスタッフさんやキャストさんでまた続編が観たいなと強く思います。それまでしばらくこのうつくしくてやさしい物語と音にじっくり浸っていたいと思います。