✎︎___

キ上の空論#10 ひびのばら 感想②

キ上の空論#10 ひびのばら

輝男サイドの個人的な感想メモです

いろんなまちがい等ご容赦ください

 ことちゃんと輝男の関係を知ってからのカーテンコールで、梨里杏さんと藤原さんがふたりで並んでお辞儀をされるのを見ると、感情がいっぱいいっぱいになります。

 人の言動にはかならず理由があるから、なんでそんなこと言うんだ…とかどうしてそうしたのか!?とか思うときに、その理由をじっくり考えるのがおもしろいなと、輝男だけでなく全編全登場人物通して思う作品です。

 梶原さんが立ち去ってから、泣きながら手を伸ばすことちゃんには戻ってきてくれる人はいないんだなと思ってかなしくなりました(そしてのちの谷口さん)

 輝男はどんな思いで取り壊しを見てたんだろうとか、日向子さんやことちゃんに会ったりしたらどうなるのかとか(見たいけど物語的に会わないのがすてきな気もします)

𖦞 あのうつくしい演出の起床で、どんなに言動がひどくても人物像としては純粋なものに属するように見えるのがすごいです。

ドンドンドンっつって、のナチュラルな怠惰加減がおもしろいし、小久保君とのやりとりがもう支離滅裂すぎて(ダメ人間的な意味で)いっそたのしく見てました。

ある程度ダメさがすさまじいと、逆に清々しさを感じるというか、マミさんも美波ちゃんに言われてましたがものすごくよくわかりました。

𖦞 輝男サイドの時間軸だと瞳ちゃんがとても好きです。たぶん親のことで苦しんできたのかなと思いますし、「深いよ!傷!!」で泣きそうになります。生まれてくる子どもの立場を考えて、そして20年は親やるんだよということをしっかりわかっているところが好きです。

もし瞳ちゃんに輝男との子どもができたとしたら、瞳ちゃんはどういう行動を取ったのかなと考えてまた泣きそうになります。

反面、美波ちゃんの言う、最初から親らしい親はいないしどうなるかなんてわからない、というのもよくわかります。実際に赤ちゃんが産まれたら変わるかもしれないよな、とも思います。

だけどなんだかこのお話を見てると、人はそう簡単には変わらないし変われないんだということがひしひし伝わってきて、瞳ちゃんの抱えてるかもしれない過去を考えても、やっぱりむずかしいんじゃないかなと思いました。

輝男がシャワーでいいかなというシーン、とってもうれしそうなのがめちゃくちゃかわいいです。山内芹那さんの声が凛としていて、本当にうつくしくて涼やかなお顔や立ち振る舞いだなぁと思いました。

𖦞 小久保君と輝男は一体どういう間柄なのか、謎が多いです。

後始末を代わりにやってあげたり、寝床で吐かれても突き放さなかったり、金の無心をされても何だかんだと貸してあげたり……

お金持ちで面倒見がよくて、輝男をさん付けで呼ぶし、どういういきさつでの関わりなのか知りたいです。

あんなに言動がダメでも輝男の周りにはいつも誰かしらいるのが、なにか惹きつけるところがあるんだろうなと思います。(あとちょっとラストの曲も思い出します)

おじいさんの形見のお酒の話、輝男本人への罵倒よりも、小久保君が家族を大切にする気持ちが輝男をがんがん殴りつけているような気がして胃がえぐられました。

𖦞 輝男がお風呂嫌いな理由とか寝てるときにみる夢とか、ぜんぶ分かったときがしんどすぎました 。

今までの苦労や傷があった結果のああいう人物なんだと思うと、どうにも惻々とした気持ちになります。

お風呂嫌いで清潔にできないから仕事も難しいのかもしれない、そうするとだんだんああいうくらしに行き着くのかもしれない、とも思いました。

小さい頃と、それ以降のくらしなんかも想像するとつらくてだめです 。

だからといってもちろん、つらい思いをしてきたからひどいことをしていいということにはならないので、本当に『どうしようもない』人なんだなと感じました。

ダメ人間という意味の『どうしようもない』と、そうすることでしか生きられないという意味の『どうしようもない』のどちらも含まれているように感じました。

純粋に本能で生きてるけども、マミさんの嘘を見抜く力や働かなくても渡り歩いていけるくらいの生きる力はあって、それが逆にくるしいだろうなと思います。

𖦞 『そうしようと思えば能力的に可能なのにそうしない人』はクズという部類だろうかなと思うんですけども、『そうしようと思ってるけどどうしてもできなくて、諦めて生きてる結果とんでもないことになってる人』はどうなのかなと思うんですけども、輝男は前者の『クズ』なんでしょうか、なんとなく後者のようにも感じます(言動だけみたらクズかもしれない)

もちろん生まれ持った性質が大きいとは思うのと、両親と弟とのくらしや、両親の性質などなどがものすごく大きく影響すると思うので、かなり気になります 。

家族関連のことを多少なりとも克服することはもう諦めてしまってるのかもしれないというか、そもそも克服ということを考えていない可能性が高いけども(無意識に努力したことはあるかもしれないけど)、トラウマが根深いことによって血縁をつくることや水や狭い場所が生理的精神的に無理で、その『無理』が輝男の第一の優先順位にきているのでほんとうに文字通り『どうしようもない』ように感じました。

言動がすさまじいけど、マミさんを叩きはすれど殴る蹴るはためらってたのが、そのへんはまだ踏みとどまってる感じがします。心からのクズだったら殴る蹴るをしてる気がします。

日向子ちゃんのことも好きにちがいないのに、『第一の無理』が発生してしまったことによる悲劇、のような様子に思えました。

𖦞 個人的に、この物語の中で一番うわああと思ったのはマミさんです。

そして個人的にみどり色で一番好きだったのがユミさんなので、若干余計うわああとなりました。

子どもをいのちをなんだと思っているのか(実際はおなかにいなかったのですが)、とぐつぐつした気持ちになりましたが、でもこういう人っているよなぁと、ある意味本能で行動してるんだろうなと、またそのリアルさに感動してしまいました。

𖦞 そしてそのひどい嘘に振り回されたリョウジさんの、美波ちゃんとベンチで話しているときの台詞が、物語の根幹であるように思えました。

愛し合ってなくても子どもは生まれる、わかってなかった、と穏やかに呟くリョウジさんがぽろっと涙をこぼしていて、本当に好きなシーンです。

リョウジさんは口下手っぽさはあれど、とても優しくて常識を知っている人だと思います。コミカルな面もかわいくて、あの殴るオノマトペがめちゃくちゃ好きです。腹立たしいことがあったらあれを頭の中で唱えれば気持ちがたのしくなりそうです。

美波ちゃんはとっても声がきれいで、まっすぐな演技がすてきでした。

マミさんの手助けをする形でしたが、吐きそうになったと言っていたので、良心や常識をもっている女の子なんだと思いました。

リョウジさんと話しているときの美波ちゃんが、優しさも感じられてかわいくて好きです。

𖦞 ことちゃんが「子どもを理由にしないでくださいよ」と言っていましたが、子どもを理由に大切な人と離れることになったのは輝男も同じで、そこにいのちがうまれてしまえばいろんな物事の優先順位が変わるということを、ふたりは突きつけられたんだなと思いました。

優先順位を変えられない輝男は、日向子ちゃんと別れることになってしまいましたが、自分の血縁が存在することを知っているんでしょうか。

𖦞 2回目以降は日向子ちゃんが登場するだけで涙腺がゆるゆるになりました。

マミさんと瞳ちゃんの言い争いを黙って聞いているときの表情がほんとにつらいです。

マミさんとリョウジさんと美波ちゃんと、そして日向子ちゃんが部屋に入ってきたときに日向子ちゃんを見る輝男の表情もほんとに心が折れます。

しばらく日向子ちゃんを見て俯く輝男と、心の中で泣き叫んでいる日向子ちゃんを、つらくてもずっと見てしまいました。

日向子ちゃんはなんとなく、輝男みたいな人とは普段あまり関わりがないような感じに見えるのですが、それが余計に引き合わせたのかなとも思いました。

ケンカして出て行く前に伸ばされた日向子ちゃんの手を、面倒くさそうに取りにいく輝男の声色が回によってちがっていて、面白かったです。

日向子ちゃんがことちゃんを優しいまなざしで見るとき、輝男のことも思い出してるのかなと思うと、さびしくてあたたかい気持ちになります。

アユちゃんのお父さんはどんな人だったのかとか、そのお父さんとも別れることになってしまっているので、日向子ちゃんはあんまりそういう運がないのかもしれないというか、でもことあゆちゃんを大切に育てたんだなぁと思って、この三人家族が愛おしくなります。

𖦞 最後にみんなで、大きいおなかをわいわいよろこび合ってるのがなぜだかなんだかもうほんとに最高に気持ちが悪いなと思ってしまいまして(とてもとても褒め言葉ですこの場面とても好きです)(そして個人の感想です)

あのすがすがしいまでの気持ち悪さをClose To Youがもうぜんぶひっくるめて包んでるような、最上級の皮肉のような(生まれてくる子にはゆりかごや子守歌のようなものであってほしいと思ってしまいます)

人間てそこはかとなく気持ち悪いものなんだなぁ、気持ち悪さも含めて人間だし生きてるってことなんだろうなぁと思いました 。

𖦞 小さい頃の輝男はトラウマを抱えることになってしまって本当にかわいそうですが、今の輝男にかわいそうということばをあてがうのはなかなかむずかしいなと思いました。

子どもが子どもを育てるなんて、みたいなことばをあびるような歳には見えないから、ということは大人として生きていくしかないからです(語弊があるかもですが)

だけど輝男にはどうしてもやっぱり絶対に無理なものがあって、そのことによってたくさんのものを失うのはたしかにかわいそうだけど、じゃあどうすればいいのかということを輝男は考えなきゃならないのかもしれないなとも思いました。

周りにはそれを手伝ったり助言したりできる人がいなかったのかもしれないし、類は友を呼ぶといいますからしかたないのかなとも思いました。

瞳ちゃんはよく理解しているように見えましたが、瞳ちゃん自身も過去を抱えて生きているようだったので、どうすればいいかでなくこのまま抱えて生きるしかないという考えだったのかもしれません。

日向子ちゃんとわかれた後24年間、どうやって生きてきたんでしょうか。

よろこぶ夫婦たちを見る輝男の表情が忘れられません。『絶対に無理』は変わってないようにも思えました。

𖦞 花言葉を検索しましたら、

5本の薔薇は『あなたに出会えて本当に良かった』

野薔薇は『純朴、素朴なかわいらしさ、孤独、痛みから立ち上がる』など

とありました。

日向子ちゃんに5本の薔薇をお願いされたとき、重いやんなんか意味もたせとるやろ、と言っていたので、輝男がそういうのをちょっと知ってると考えると、どうして野薔薇の文字をいれたのか、『日々孤独』かつ『日々痛みから立ち上がる』のかと思うとそれを自分で入れたというのがすごく…

ある意味ものすごく純粋に生きている人が、自分に言い聞かせてるようにも、ぜんぶ諦めているようにも、だけど諦めきってはいないような感じもするような、というのが本当に丁寧に作り込まれている物語や人物設計だなぁと思いました。

𖦞 ことちゃんが、自分で自分をダメだとわかってる人はダメじゃない、のような話をしていましたが、輝男のことを思い出して泣きそうになりました。

また追記します。